サッカー(引用)


レアル・マドリーの歴史上、初のリーグ戦4連敗

レアル・マドリーは優勝できない」――。
 私は、昨年9月のシーズン予想でこう書いた。
 当時、レアル・マドリースペイン・スーパーカップを獲得したばかり。ベッカムが初ゴール、初アシストを記録するなど、バラ色のシーズンを約束しているかに見えた。
 優勝できない理由として、「悪過ぎる攻守のバランス」を挙げ、「長いシーズン、バランスの欠陥を運動量のアップだけでは補えない」とした。加えて、フィジカルコンディションの不安「大事なプレシーズンに、移動→公開練習→楽な試合→夜遊び→移動を繰り返していたレアル・マドリーは、後半必ず息切れする」。「スーパースターたちの控え選手たちがまた心もとない」と、選手層の薄さを指摘した。
 あの予想では、バルセロナを優勝候補とし、それは見事に外れた。が、レアル・マドリーに関する限り、ほぼ当たった。いや、それでも正直言って、“銀河の戦士”を集めたチームが、ここまで転落するとは思わなかった。

 ご承知のとおり、レアル・マドリーはなんと、2部落ち決定、今季わずかに4勝、もちろんダントツの最下位ムルシアにも敗れてしまった。降格チームの選手が喝さいを浴び、スタンドにはウェーブが起こるなど、前代未聞の光景が繰り広げられた。前代未聞と言えば、そう、リーグ戦4連敗は、100年を超えるレアル・マドリーの歴史でも初めてだ。
 この敗戦で、一時は18ポイント差をつけていたバルセロナに抜かれ、3位に転落。残り1試合でバルセロナを抜くには、レアル・ソシエダに勝ち、バルセロナの敗退が条件。バルセロナが引き分けた場合には、4点差以上での勝利が要求される。3位に終わりチャンピオンズリーグ予備予選を戦う羽目になれば、ドル箱のアジア・アメリカツアーは大幅に短縮される。日本のファンのみなさんには気の毒だが、今のレアル・マドリーが4点差をつけて勝つ、というのは夢の夢に思える。「早くシーズンが終わってほしい」(カシージャス)という言葉が、チーム状態を象徴している。今のレアル・マドリーは、スペインリーグで最もモラルが低く、最も体力が無く、最も弱いチームだろう。



■モラルの低下と自業自得のケイロス

 このレアル・マドリーの転落には、パターンがある。
「凡ミスから先制される」→「誇りをかけて反撃」→「キーパーの美技やポストに阻まれる」→「足が止まり、イライラが募る」→「馬鹿げたプレーで退場」→「息の根を止められる」。

 冒頭に紹介したように、レアル・マドリーの攻守バランスは悪い、フィジカルコンディションは最悪、選手層だって薄過ぎる。が、これだけでは、現在、リーグ最弱にまで成り下がった、急転落を説明できない。転落のパターンを分析すると、その背後には下がり切ったモラルがあることが分かる。3つの要因に加え、この心理的な要因がレアル・マドリーを奈落へ突き落としたのだ、と私は思う。

 モラルの低下は、すでに試合前から明らかだった。
 ケイロス監督の解任が発表されたわけではない。が、それはカマーチョ新監督の就任と合わせ、周知の事実となっている。フロレンティーノ会長もバルダーノ、スポーツディレクターも、ケイロスをかばう発言をすることはない。

 選手も言いたい放題だ。
「私には理解できないことをしている。彼(ケイロス)は無意味なことをした理由を答えるべきだ」という“問題児”グティの発言には驚かない。が、あの慎重なラウルまでが、「(カマーチョが)監督であればいい」と口をすべらせていた。すでに選手の中ではケイロスが“過去の人”になっていることがうかがえる。

 こんな舐められたことを言われたら、私ならグティを外す。
 グティの発言が真実かどうかなどどうでもいい。監督と選手には明確な上下関係があり、常に誰がボスであるか、をはっきりさせておかねばならない。
 が、ケイロスはベンチに入れた。スターティングメンバーにしなかったことが、十分な“罰”だと思ったのだろうか。それどころか、あろうことか、70分に出場させてゴールを決めさせている。このグティの起用はケイロスの自殺だ。控え生活に不満を漏らすグティの発言を、ゴールが正当化してしまったからだ。選手は舐め放題、それでも使ってもらえる、もうチーム内に規律も何もあったものではない。

 ケイロスがここで弱さ、権威の無さを公にしてしまったことは、将来の監督としてのキャリアにも影響する、と私は思う。どんなに酷いシーズンを過ごして解任されても、拾ってくれるチームは必ずある。チームの不振は、監督だけの責任ではないからだ。が、選手を統率できない監督を拾ってくれるチームは存在しない。
 グティを外せば良かったのだ。秩序を乱す選手は外す、そんなことは、われわれ監督の常識ではないか。グティ、ベンチ入りの時点で、ケイロスは“過去の人”になった。そしてそれは、厳しい言い方になるが、自業自得というものだ。